アイスクリーム

「ここにいたんすね」
 洗濯物を干せる程度の狭いベランダに見つけた後ろ姿に、お風呂上がりのニキが驚かせないようにそっと声をかけた。
「はい……星が綺麗だったのでつい……。ああ湯冷めしてしまいますよぉ?」
 振り返りながら空を指差したマヨイは、隣に並ぼうとするニキの肩を掴んで慌てて部屋の中へ押し戻す。「私が戻りますから」と言って、マヨイが中へ入ろうとすると、窓の桟越しにニキから手を繋ぎ直された。髪を解いた状態のニキからジィッと見つめられ、それからニコッと無邪気に笑う。
「ここから見るマヨちゃんはもっと綺麗っすよ、ほら」
 星を背に立つマヨイのことを言っているようだった。マヨイは当然ながら当惑して大きな声で「えぇっ?」と困惑の色を示した。けれど、ニキは真面目に言っていたらしく、マヨイの手をぎゅっと力強く握って動くことを制止してくる始末だ。
「……うん。もう大丈夫っすよ」
 しばしの間、無言になったニキから熱視線を向けられたまま動けずにワタワタしていると、何かに満足したらしいニキのお許しがでた。満足げな表情はすぐに分かる。嬉しそうにニコニコと頬を緩ませているニキは、お風呂上がりの姿も重なって愛らしさが増している。
 不思議に思いながらも「椎名さんが嬉しそうだから良しとしましょうかぁ」なんて、マヨイは深く追及することもしなかった。
 掴まれていた手を引かれてマヨイがベランダから室内に戻ると、寒暖差を感じてくしゅっと小さくくしゃみが思わず出た。
「あ?、冷えちゃったっすよね? お風呂入っちゃってください! 僕ぁそれまでアイス我慢してるんで!」
「はいぃ、ささっと済ませてくるのでぇ」
 今日は週に一度のお泊まりの日だ。ニキの自宅アパート近くのコンビニで待ち合わせをして、ちょっとしたデート気分でアパートまで一緒に歩く。スイーツを買って、一緒に食べるのが最近の楽しみだった。
 マヨイが浴室へ姿を消したあと、ニキはソファに座って先程の光景を思い出していた。
 マヨイの背後に浮かぶ月。藍色の空に点在する星々は彼の周りを明るく彩り、葡萄色の髪を艶めかせる。顔には逆光で影が浮かぶのに、それが逆に妖しく色香が立つ。写真に収めようとも思ったけれど、自分だけのマヨちゃんであってほしい――なんて、絶対に言えないし。欲情しちゃったなんて、もっと言えない。
「もう秘密にするの限界っすよぉ……」
 お風呂上がりにまだ火照ったままの体をパタパタと手で扇ぐ。仲良くするようになってから抱くようになった劣情も、もう隠しきれないところまできている。
 熱い気持ちを誤魔化してくれるアイスの時間が待ち遠しかった。
  

2021.05.06 / Twitter(1hwriting)
お泊まりする日、一緒に食べる時間が待ち遠しい。

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