モーニング

 布団を頭から被って朝陽から逃れ続けていた礼瀬マヨイに審判のときが下る。
「学校に行く時間っすよ?」
 お泊まりした朝。良い香りが漂う部屋。美味しい朝食の用意も終わり、残すはひとつ。未だ温もりの揺り籠から抜け出せずにいるマヨイだ。部屋の主の椎名ニキはベッドの脇に膝をつき、かわいい寝坊助に呼びかけ続ける。
 こんな瞬間もニキは楽しいと感じていた。朝に弱いとは聞いていたものの、ニキの前でも取り繕うことなく予想していた通り過ぎるその姿を見せてくれるマヨイのことがニキは可愛くて堪らなかった。
 ニキは真ん丸になった布団の一箇所を捲って中の様子を窺い見る。頑なに夢を見続けようとするマヨイの瞑った目を見つけると、ニキの顔には自然と笑みが浮かんだ。
「ううぅ……」
「ほらマヨちゃん、そろそろ起きようね」
 人差し指の側面でマヨイの頬を撫でる。そうやって少しずつ布団に外の陽光を差し込ませていくニキの声は、こんな姿を見せても優しくて。
「……起きないとキスしちゃうっすよ?」
 ゆっくりと捲っていった布団からマヨイの上半身を外に晒し、パジャマ姿のマヨイに覆い被さりたい衝動を堪えつつ、そんな誘惑をチラつかせる。
「……キスしたら、このまま寝ていても……?」
「んぃ? そうくるっすか?、じゃあ僕も一緒に寝ちゃうっすね?」
 そう言って、ニキはマヨイの横に並んで顔を近づけた。ふたりの鼻先が掠めるくらい近くにある。それでもマヨイは動じずにいたけれど。
 ニキのいたずらな手がマヨイのパジャマの内側に入り込もうとした次の瞬間、マヨイは「ひゃあっ」ととんでもない声を上げて驚いた。
「――ッ」
 予想していなかった可愛らしい声がニキに届く。そして、その驚いた反応でふたりの唇同士がぶつかりあった。
 低血圧でゆっくりな思考も急回転したようで、マヨイがよううやく目を開けて、目の前に迫っているニキの顔を捉えた。
「……うう……ちゃんとしたキス、したいです……してくれたら起きるのでぇ……」
 ニキの服の裾を掴んで甘える仕草を見せるマヨイからねだられると、ニキの顔も見る見るうちに照れや喜びに溶けていく。
「もぉ~……」
 マヨイの両頬を掴んで自分と対面させるニキは、まだ微睡んだままのマヨイの目と目が合うまでそうした後に、ちゅっとかわいい音を立ててキスをした。
「あんまり可愛いことしてるとマヨちゃんから食べちゃうっすからね?」
 狼に変貌しかけたニキだったものの、マヨイの頭をよしよしと優しく撫でて事なきを得る。
「……っ、? ――?」
 遅れて自分がニキへしてしまった態度に羞恥やら居た堪れなさが込み上げてきたマヨイが飛び起きた。
「わわわ私、私」
 と、明らかな動揺をしているマヨイの姿もニキには可愛いマヨイの姿でしかないのである。
「あは、や?っと起きた。おはよう、マヨちゃん。朝ごはん、冷める前に食べるっすよ~」
 そう言って、先にベッドから離れ、朝食用の牛乳をふたり分のグラスに注いでいくニキが微笑う。
「はぁい……おはようございますぅ……」
 ようやくにして起きたマヨイは洗面所に向かう前に、テーブルの側で支度をしているニキに抱き着くと、マヨイはすりすりと身を寄せて挨拶を済ませる。
「マヨちゃん……?」
 抱きしめ返そうとしたら、マヨイはニキの腕をすり抜けるように洗面所へ向かってしまった。
 行き場を無くしたニキの腕はぷらんと宙に浮いたまま、ニキの口から「はぁ?……」とため息が漏れた。
 マヨイのこの仕草もまだ寝ぼけていただけのか、それともわざとしてきたのか。ニキには判らなかったけれど、こんな風にマヨイのどんな挙動さえ愛しく見えてしまう自分にもニキは気付いてしまった朝だった。
  

2021.05.08 / Twitter(1hwriting)
寝起きのマヨちゃん。両想い。

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