遣らずの雨
槙島×狡噛(『Black Rain』を観た後に書いた)
――死を悟ったとき、思い出したのはお前の顔だった。
「皮肉な…もんだ、な……」
一度地べたに蹲ってしまったら、もうろくに身動きが出来なくなった狡噛が、すぐ近くで見下ろしているアイツに向かって言った。
黒い雨が降る地上で、ずぶ濡れになることもなく雨を浴びている槙島聖護が一歩近づいてくるごとに、彼の瞳から光が喪われていく。
現実を観ることが出来る槙島の瞳が狡噛だけを映していた。
狡噛はその現実ではない者を見つめながら、胸を穿った銃創を右手できつく掴んで蓋をし、零れ落ちる命を留めていた。
もうろくに力も入らなかった。
そうやって圧迫止血を施したところで、体内に留まってしまった銃弾が臓器を傷つけている。身体中が焼けるように熱くて、あちこちが痛かった。
自分の命がどれくらい持つかどうかが分かる。死に神の鎌に首を狙われた今、狡噛にははっきりとそれを理解出来た。
「…………死ぬのか、狡噛」
雨に当たるはずのない槙島の頬が濡れていた。
篠突く雨の中、狡噛の言葉を代弁する幻影の足下が、少しずつ融けていく。まるでこの雨に攫われ、流されていくように消えようとしている。
「また君と話が出来なくなるのか……」
孤独なこの世界で孤独を紛らわせてくれていた槙島が、憐憫の情を孕ませて言う。
その声は、届いていなかった。
声も出せない狡噛の顔が、清々するぜ――と、意地悪い顔で嗤ったまま、動かない。
狡噛の視界は揺れ暈けて、彼が見つめ続けた世界が霞んでいく。
「なあ、狡噛……もう一度やろうね――」
灯火が、消える。
ふたりは、実りの雨を止めに行った。