03.君の為に流した涙は永久の秘密



ST☆RISHがデビューしてからと言うものの、日々は目まぐるしく過ぎていった。気がつけば季節は秋も終盤。そろそろ街はクリスマスムード一色になることだろう。
そんな幸せは何処吹く風と、今日もST☆RISHの皆さんは雑誌撮影に勤しんでいた。

メンバーが6人居るともなれば、撮影は大所帯。スタッフも含めると幾ら広いスタジオ内と言えど狭く感じるものだ。
そこで大体の現場はメンバー集合の撮影から入る。今日もそうだった。
まずは6人で撮影。それから2人ペア3組となり撮影を執り行う予定になっている。
今回の雑誌のテーマはずばりクリスマス。発売号が12月らしく、用意された衣装はそれぞれの個性に合わせ、サンタクロースの衣装やドレスコードとばらばらだった。

元より和気藹々なST☆RISHの撮影はスムーズに進んでいく。
集合を撮り終え、今は各ペアでの撮影に入ったところだ。つまりは束の間の休憩時間になる。
とは言え、雑誌に掲載する対談取材もある為、休める時間はごく僅かに限られているのだけれど。
先に取材を受けることになったレンと真斗はロビーのソファで雑誌スタッフと談話中。それを横目に通り過ぎた際に聞き取れた内容から察するに、今回の取材テーマはクリスマスと恋愛らしい。全く以って女子の好きそうな話題である。


「ペアリング?」
「そーそー、ペアリング。今日の撮影であったじゃん。衣装と一緒に指輪がさ!ほら、これ!俺とトキヤ、デザインも色も一緒なんだよ。知ってた?」

楽屋へ戻って早々、漸く打ち明けられるとホッとしたような顔で声を掛けてきた。それはもう凄く差し迫ったような顔。緊迫と言うよりは困惑、いや少しばかりの高揚と共に。
余りにも唐突な問いかけにきょとんとしてしまっているトキヤにずいと近づき、その指先に輝く指輪を見せ付ける。

「確かに言われてみれば…。似ているなとは思っていましたが同じだったんですね。だとしても、音也が気にする意味が分からないのですが…」
「え、だってペアだよ?しかも指輪。問題大有りじゃん?」

テーブルを挟み、向かい合う二人。ジッと覗き込むように見入られると、流石のトキヤも困惑の色を隠せない。
指摘された通りに自分が嵌めているリングに視線を落としてみた。するとそれは間違いなく目の前で見せられた彼の指輪と同じ色、同じデザイン。そう、まさにペアリングだ。

「ええ…ですが私たちはペアでしょう?それとも何か不都合でもありましたか?それでしたらペア撮影の時は外しますが…」

学生時代、寮で同室だった者同士がペアを組む。それはデビュー後も何かと継続されていた。だから音也のペアはトキヤ。レンのペアは真斗。那月には翔と言った具合だ。
その組み合わせに問題がある訳ではない。何一つ不自由の無いペアだ。寧ろ気心知れている分、今となれば組み換えされる方が困惑してしまうかもしれない。

「それは…そーだけど!不都合もないよ!でもさ、俺が言いたいペアはそういうことじゃなくって…!」
「……?」
「だから…その…何て言うか……」

渋る音也が溜息を吐き、乗り出していたテーブルと別れを着ける。
少し拗ねたように真っ直ぐは向かい合わず、音也は横を向いた状態で今度は指輪と手遊びだ。ゴールドのそれを撫でてみたり、外しては嵌めての繰り返し、落ち着かない。
その態度に合わせ(と言うよりは合わせる他なかっただけである)、トキヤはトキヤで自身の行動、発言を思い返す。6人グループ内でペアがある事はCDやグッズ、番組内などでもそれは公言済みだ。昨日今日始まったことではないのだ。
なのに何故、ペアのリングが拙いことになるのか、皆目見当がつかなかった。いや、考えすぎだろうと、原因の選択肢の中から真っ先に除外したと選択肢もあるのだけれど。
そうして、音也からそう言われてしまった原因を探る。自分の置いた状況を一つ一つ洗い浚い選別していった。それ故の無言だったのだが。

普段から騒がしい音也と一緒に居る時の沈黙が、トキヤは少し苦手だった。
集中したい時に限って、あれこれと訊ねてくる無神経さには苛々も募りはしたけれど、音也や他のメンバーとの喧騒の中で過ごす日々が楽しくなかったと言えば嘘になる。トキヤは言うほど騒がしい毎日が嫌いではなかった。

今では懐かしいそんな日々を思い出して表情が緩む。
そして見出した一つの答えと共に浮かび上がる一人の人物。今は廊下で口鮮やかに愛を囁く軟派な男。そして先程、真っ先に除外した自惚れのような原因。
落ち着いて考えてみれば言われる所以はそれしかなかった。

「……もしかしなくても、レンのこと…ですよね…?彼なら気にも留めませんよ。安心なさい」
「え?そーなの?」
「ええ、ですから無駄な心配は止めなさい。それから無駄な勘繰りも」
「…レンってさ、そういうとこ冷たくない?トキヤはそれでいいの?」

トキヤは、同じクラスで一つ年上のレンとつまりは恋仲だった。
とは言えべたべたに仲が良い訳でもなく、程よい距離感を保っている(本人達はそう思っているらしい)。
このことは音也だけでなく他のメンバーも勿論気付いているが、なるべく気付いていない振りを続けていた。知っていようと特に問題はないのだけれど、アイドルと言う性質上、隠しておいた方が良いことだってある。
況してやメンバー同士、それも男同士。それを公に出来るわけがない。仮にも今を輝くアイドルなのだ。そんな浮いた噂など言語道断。
メンバー揃って仲が良いと言うことは、各雑誌の取材やテレビのバラエティー番組などで再三印象付けてきたことも功を奏し、表立って噂されることは今のところない。
だがしかし、それは対外的に向けられたものでしかない。内的にはと言うと、それはまた別問題だった。

「……冷たいどころか熱くて敵いませんよ。本当に…」

ぽつりと呟かれた本音は聞き逃さない。
そう言う所の反射神経は早いと言うか、スポーツが出来る故なのかは定かでない。
ただ一言一句聞き逃さなかった音也が、にんまりと口元を緩めた事は言うまでもなく。機嫌が戻ったのか、手遊びを止めた代わりにもう一度テーブルに身を乗り出す。

「へぇ、…例えば?どんな風に?」
「そうですね…レンは……」
「うん?レンが…?」

一体トキヤは何を思い出しているのか。何が二人の間にあったのか。気になりすぎてもどかしい。
まるでキラキラ光線を浴びている気分だ。ビームのような熱い眼差しがトキヤに降り注ぐ。そうやって無邪気に追い詰めていく。

「――って、何を言わせるつもりですか…ッ!何もないですよ、何も…!」
「ええー!何それ!すっげぇ気になるじゃん!言ってよ〜!!」
「…何もないことをどう言えと言うんです…!全く…!」
「何もないなんて絶対言える?嘘だよね?大丈夫。俺は口堅いよ?」
「だから…レンとは何もないと…、言ってるでしょうが…」

もしこれが仮に仕事中でなかったとしたら、服にしがみつかれて騒がれていたことだろう。
この現場に限って言う事ではない。衣装やアクセサリーもそう。アイドル側が私服を用意する事はそう多くない。強いて言うならアクセサリーと言った装飾品、自己メイク。それくらいだろう。
だから殆どの撮影現場でそうだが、用意されたものを用意されたように身に纏う。そして撮影をこなしていくだけ。
従って、今回の指輪もそうだ。お揃いだったことは二人がペアだから用意されただけに過ぎないのだ。勿論3組分、ペア同士で配分されていたはずだ。
それは嬉しいような悲しいような、音也にしてみれば酷く複雑な思いだ。仕事をしている最中はあっさりと欲しいモノが手に入るのだから。悔しくて仕方がない。
好きの気持ちの大きさは誰も負けない自信があると言うのに。
こんなにも側にいると言うのに――届かない。


「…もー!!トキヤはホント意地っ張りだなぁ」
「意地など張っていません。張ってるいのは寧ろ音也――あなたの方でしょう?」
「だってトキヤ、俺に嘘吐くじゃん」
「あなたって人は本当に……私は意地っ張りでもなければ嘘吐きでもありません。全て音也の思い過ごしですよ」
「嘘だね。ぜーったい嘘吐いてる!」
「音也――私が嘘を吐いていないとそう言ってるんです。それでいいじゃないですか」

真っ直ぐに見つめられて、音也が唇を噛む。
自分のしている行動がまるで駄々っ子そのものであることは理解っているつもりだ。みっともないことをしている事も重々承知している。
でもそれくらいに想っているのだ。
(俺だってトキヤのことを――、)



「んもう!良くないよ!……それに、トキヤは気付いてないかもしれないけどさ、入学してから俺たちずっとペアじゃん。寮でもST☆RISHになってもさ」
「…ええ、…?」
「他の皆よりは俺、トキヤの近くに居たと思う。だから気付いたのかもしれないけど、…トキヤ、すっごく優しい顔になったよ。うん、俺が言うんだから間違いないよ、絶対に!」

音也は何を吹っ切ったのか、大きく息を吐いて頬杖をつく。
唇は未だにぶーっと尖ったままだったけれど、二人が“ペア”であることはきっとこのグループが解散でもしない限り起き得ないことだ。それが逆に自信となり、吹っ切れる源となったのだろう。

「は?……優しい…顔……?」
「うん。それって多分、レンと仲良くなってから…なんだと思う。よく笑うようになったって言うか、表情?うーん…何て言うのかなあ…優しいって言うか、柔らかいって言うか…あったかい…?」
「………っ、」

例え好きな人が自分以外に想いを寄せていようとも、だからと言ってそのペアが解消される訳ではない。寧ろ、トキヤに恋人が居るなんて騒がれてしまった方が解散の危機は上がるに決まっている。
だとしたら、だ。その想いを汲み、露見しないようにしてあげる事の方が音也には最良の選択なのかも知れない。
“ペア”で居られることは確かなのだから。
恋人関係に似た信頼関係を築けることは間違いない。プロとして。アイドルという夢を維持し続ける為にも。それは絶対条件に近い。勿論ペアだけでなくグループとしてもそうだ。
ならば、この選択は間違いではないような気がした。少なくとも、誰もこれ以上悲しい思いはしないで済む。きっと。
(そんな思いをするのは、俺だけでいい。)

「…だからさ、指輪のこと。気にしたかなぁって思ってさ。聞いてみたってワケ!」

そう吹っ切れたからこその音也の笑顔だった。
眩しい笑顔。誰よりも優しさの籠もった笑顔がトキヤの目の前にはあった。

「……本当に…、音也には敵いませんね……」
「?トキヤ…?」

気付かない方がおかしい。
こんなにも優しさに溢れた彼の真っ直ぐな想いに、気が付くなと言う方が無理だ。
だけど、それには応えられない。その想いの真髄には触れられない。だから気付かなかった振りをする。初めて見え透いた嘘を吐いた。
(ごめんなさい、音也――。)



「…ええ、そうですよ。彼が居たから、私はこうして…一ノ瀬トキヤとしてデビュー出来たようなもの…。HAYATOとして活躍していた私ではなく、ね…」

柔らかい微笑みを浮かべ、懐かしむように紡がれていく言の葉。その声音に孕む愛情は、此処には居ない別の“ペア”へと向けられてもの。恋人という“ペア”――。
初めてだろう、こうしてトキヤがメンバーの誰かに想いを打ち明けることは。きっとこれが最初で最後。ならば、それくらいはこの相方に捧げたとしても悪くないだろう。
音也への信頼は勿論、愛だってきちんと持っているのだ。それは嘘ではない。
ただその優しさは酷く残酷なものだけれど、それでも伝えておきたかった。これからも末永い仲間で居たいからこそ。

「やっぱり。レンのお陰だったんだ」
「ええ…、レンだけではないですが…勿論音也にも随分と励まされました。…そう言えばお礼を言えてませんでしたね…。ありがとう、音也(――私を想ってくれて)」
「――えっ!そんなお礼なんていいよ!いらない!俺、何もしてないし!どっちかって言うと迷惑ばっかかけてたと思うし!」
「ふふ、そう言っていただけると救われます。これからもよろしくお願いしますね、音也」
「…うん!レンとのことは大丈夫。絶対誰にも言わないからさ!約束する(――だから幸せになれよな)」

精一杯の優しさはぽんぽんと頭を撫でることですり替えた。
そんなトキヤの行動に驚いたのか、大きな目をぱちくりさせる音也と目が合う。まさかこんな形で気持ちに折り合いを付けるとは思っていなかっただろう。それはトキヤも同じだ。
況してや年下相手に酷な事をしたかも知れない。そんな躊躇いも脳裏に過ぎったが、それは彼が求めてき握手によって断ち切られた。
そして、二人は笑い合った。
仲間として、最愛の“ペア”として、優しい笑顔で二人は満たされていく。



「…さて。そろそろ戻りましょうか、休憩時間も残り僅かになりましたし」
「そうだね、行こっか!…と言うか…何かごめんね、折角の休憩奪っちゃって」
「謝る事は何もないですよ。…音也、そんな暗い顔で撮影するつもりですか?…ほら。笑顔はどうしました?笑いなさい、あなたの笑顔はST☆RISH一なんですから」
「ッ――…へへっ、サンキュー、トキヤ!俺の笑顔に惚れるなよッ!」
「ふふ、そうですね。気を付けるとしましょう…って、こら!音也!廊下を走るんじゃありません!!――ったく、仕方ない人ですね、まったく……」


そう、二人の間に涙など似合わない。
分かっているからこそ音也は先に部屋を出て行った。溢れ出しそうな想いを隠す為に。
最高の笑顔を君に捧げ続ける為にも――。






君の為に流した涙は永久の秘密





2011.11.10
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