22.コールコール
電話は掛けてもツーコールまでと決めていた。
それ以上は鳴らさない。二人のルール。
今日はレンがオフの日。トキヤは今夜から明日にかけて半日オフだとカレンダーが告げている。
する事が無かったと言われればその通りだが、二人で暮らしているこの部屋で、一人きりは妙な寂しさが募ってしまう。
ダメ元で一度だけ、電話をかけてみよう。
そう思い立って掛けてみれば、まるで電話の相手は待っていたかのように、ワンコールで通話が開始されたのだ。
流石のレンも驚きを隠せなかったが、話を聞けば、丁度、撮影の待ち時間だったらしい。
電話先のトキヤの、少しだけ浮いた声。
長年、寄り添ってきたレンだから気付ける声の違いに、寂しさは疾うに消え去り、代わりに埋め尽くされたのは嬉しさや喜び。
一人では広いベッドに横たわりながら、他愛もない会話を続けていた矢先――、レンが告げた言葉に、トキヤが急に黙ってしまった。
「聞いてた?トキヤ」
『………ええ、聞いていますよ』
「だから、言って?トキヤも」
『貴方は部屋で一人かもしれませんが私は…っ――、仕事に来ていて今は楽屋にいますが…誰かに聞かれたらどうするんです…!』
「…だよねぇ、分かってる。仕事熱心も感心だが…無茶するなよ」
『……私も好きですよ』
「…! オレも好き、大好きだよ」
『そんなに告げなくとも分かってますよ、ちゃんと…レンの想いは私に届いていますから』
「…違うんだ。告げておける内に沢山囁いておきたいだけ…今度いつ会えるかなんて保証出来ないだろ?…だから…好きだよ、トキヤ」
『っ……、私の方がもっとレンを好きですよ』
「オレだって大好きさ」
『…ふふ、一人のオフはそんなに寂しいですか…?』
「そりゃあ…ね…。この部屋で一人はつまらない。…けど、まぁ…トキヤの枕抱きながら帰りを待ってるよ」
『まったく…あ、そう言えばメモを残しておいたのですが…見ました?』
「メモ…テーブル?」
『ええ…冷蔵庫に作っておいたオムライスがあるので、温めて食べてくださいね』
「えっ、わざわざ作ってくれたのかい?」
『でないと碌なものを食べないでしょう』
「食べたいものを食べてるだけだよ。……まさか、ダイエットメニューじゃないだろうね…」
『きちんとカロリー計算済みです』
「そうかい…、でも嬉しい。ありがとう、後で食べるよ」
『くれぐれもタバスコの掛け過ぎには注意し……あ…もう行かなくては……』
「そっか…、いってらっしゃい。…電話、出来て嬉しかった」
『ええ、私も…では、また……――ッ…』
「…――ッ!」
どうやらトキヤの撮影の番が来たらしい。電話の向こう――外の廊下に騒がしさが目立ってきた。
焦る気持ちと知られてはいけない想いの代わりのキスは通話口に一度だけ。
そんなトキヤの些細な愛情表現に、レンは真っ赤になる顔を隠せない。隠せと言う方が無理な話だ。
「…これじゃあオレがタバスコだらけになっちゃうよ…」
火照る頬や額に手を当てて、急上昇した体温を誤魔化そうと手で扇ぐ。
通話を終えた携帯電話はテーブルのメモの横に置き、走り書きされたメモにもあった通り、レンは遅い昼食に向かう事にした。