どんな時も君色の世界に居たいだけ
「…ったく、風邪なんて自己管理が出来ていない証拠ですよ」
降り注ぐ視線は冷たくとも、額に触れて熱を確かめる手は優しくて。
「…説教なら後でにして…」
ごほごほと咳き込むレンの弱々しい声が辛さを物語っていた。
「冗談ですよ、全く…食欲はありますか?お粥か擦った林檎…あとは…」
「…トキヤのキス」
「する訳ないでしょう?」
「だよね……」
ここぞとばかりに甘えてみたレンだったが、あっさりと玉砕されてしまった。
しかも、即答で切り返されてしまい、弱った今はそれくらいのことでも、しょんぼりと眉根が下がっていく。
熱に火照った頬を辛そうに持ち上げて微笑みを浮かべるレンが、何でもないと言うように平静を装ったつもりだろうが、しょ気た気持ちは一目瞭然だった。
「…治ったら、寝込んでいた分キスしてあげますから。だから、早く治しなさい」
「……キスだけ…?」
きゅ、と、レンは寂しげにトキヤの服の袖を掴んだ。
「…仕方ないですね」
そう言って、トキヤは熱で少し汗ばんだ額に一度だけキスを落とした。
「今はこれで我慢なさい」
布団をもう一度肩まで掛け直される。
ついでに頭も撫でられた。
「…熱…上がりそう……」
「その分キスが遠くなる事をお忘れなく」
顔半分を布団に潜り込ませ、ぼそり、零したレンに、くすくすとトキヤが笑う。
「お粥作ってきますから寝ててくださいね」
なでなでと落ち着かせるような手つきで優しく撫でて眠気を誘発させる。
元々、熱に浮かされていた思考が更にぼんやりとし始め、うとうととレンの目蓋が重たくなるまでにそう時間は掛からなかった。
「…出来たら…起こして…」
「ええ…治るまで側に居ますから…おやすみなさい、レン…」
眠るのはトキヤの手料理を待つ間だけだ。
そう自分に固く言い聞かせ、レンはひと時の眠りに就いていった。
眠ったレンを見届けてから、トキヤはお粥を作りにキッチンへと向かっていく。
トキヤの背中をぼやける視界に映したレンの心に込み上げる寂しさは、毛布を抱くおまじないをして誤魔化した。
そうして意識を手放したレンが、次に目覚める時は、きっとトキヤの優しい口付けで目を覚ますことになるだろう。