SHELL
「好き……あなたが好きなんです………」
――それは、まるで懺悔のような。
(…レンが…好……き…………―――)
震える声を押し殺し、いつもと同じように魅せた笑顔は何故か不細工に見えた。
レンの腕の中に抱きかかえられたトキヤは、取り繕った笑みを浮かべたまま音声だけでなく行動プログラムまで活動を停止してしまった。
プログラムの故障は彼らにとって致命的な問題だった。
トキヤは今、レンの元で運転の試験を行っていた。
人間と生活を共にすることで計れるメリットデメリットを算出するためだ。
だが、万が一試運転期間中に問題が発生した場合、それは欠陥品として開発研究所へ戻される。それが決まり。所詮モノでしかないのだ。
けれど、成長する人工知能は機械に"心"を生んだ。
それ故に、トキヤは混乱し、プログラム誤作動を起こしてしまった。
皮肉な話だ。
「……トキヤ…ッ………」
きつく抱き締めたところで、反応はない。
元より体温という概念はなくあくまで低温だったが、それも今は冷たいの一言で終わる。
動いてくれない手、握れば握り返してくれた手や袖口はしっぽりと濡れていた。
泣いていたのか。機械のお前が。
――いや、お前は"にんげん"になったんだね。
プログラム故障が発生して五分が経過する。
そろそろ開発者にプログラム故障時の緊急暗号が発信される頃だろう。
これで、お守りという面倒ごとが終わる。ようやくだ。
アンドロイド開発の件は他言無用だったため、共に生活をした一年半は堅苦しい日々だった。
元々、仮運転試験の共同生活は望んで受けたものではなかったので、巻き込まれたとレンはずっと思っていた。
だから、誰よりも清々したはずなのに。
(涙が止まらない)
同じことを繰り返すだけの機械人間――アイドル型アンドロイド。
人工知能を搭載し、歌唱プログラムは購入者独自に追加できる。専門的な知識は一切不要で、操作方法は容易である。
神宮寺財閥、聖川財閥を筆頭に目下注目されているアンドロイド業界。今後は商業施設などでのマスコットとしての活躍が期待されている。
肩書きなどどうでも良かった。
君が動いてくれさえすればそれで良かった。
嗚呼どうしてこんなにも思い詰めてしまったんだい?
「……トキ…ヤ…っ…」
もしも願いが一つだけ叶うなら、オレは君と出会ってしまったあの日に戻りたい――。