プライオリティー
寮室にて―――。
「イッチ〜……」
二人は今、同じベッドの上でじゃれ合っていた。
トキヤを押し倒した状態で、レンは擦り寄るように抱き締めている。腕の中には、それとなく躊躇いの色を覗かせるトキヤが渋々、彼を受け入れていた。
「二人が帰ってきたらどうするんです…」
「大丈夫だって、収録は夜までかかるって話していたし」
「そういう問題じゃ…」
「実際、二人は今いないんだし、少しくらいいいじゃない」
「『少し』で済ませられるんですか?まったく……」
否定の言葉を繰り返すトキヤだったが、振り解く素振りは一切見せない。決してトキヤはレンを拒絶したいわけではないのだ。
それをレンも理解しているから見ての通り甘えている。抱きつき、キスの雨を降らせながら二人の距離を、少しずつ確実に縮めていく。
「久しぶりにオレたちのオフが重なったのに?皆はそれぞれ仕事だし、こんなラッキーチャンス見逃せないよ」
藍色をしたトキヤの髪を耳元からくしゃりと撫でる。髪の毛一本一本を愛でるように指先で弄びながら、レンはトキヤとの距離を離そうとしない。断固として、このオフを堪能しようとしているようだった。
確かに、レンの言うとおり、二人のオフが重なることは稀だ。二時間くらい重なることはあっても、ゆっくりすることは出来ない。それこそランチに出かけたり、ちょっとお茶するくらいの時間しか取れずにいる。
だからこそ、このオフを大事にしたい。そう思っての行動なのだろうけれど、トキヤは未だ理性という枷にきつく囚われている。
「一理ありますが…でも……」
そうだとしたら一体、何が邪魔をしてくるのか。
それは素直になれないトキヤ自身の性格であったり、時間をあまり作ることができない仕事であったり、理由は様々だ。それでも二人は理解っていて関係を築いてきた。
後戻りするつもりは更々ないし、関係を解消する気も全くない。
恋に仕事に、何一つ不自由しない日々。表立って恋愛を楽しめないことくらいが癪だけれど、それについても二人は十分理解しているはずだ。
「イッチーはさ、オレと過ごすことがイヤ?」
不意にレンの表情が陰る。眉根を下げ、見るからにしょんぼりという顔をするレン。
触れていた手は離れ、行き場をなくしたそれは自身の頬をぽりぽりと掻く。
「そんなこと…ないに決まってるじゃないですか……」
トキヤが慌てて否定する。
違う、と首を振り、離れてしまったレンの手を掴む。
「オレもイッチーも仕事を一番に考えてきた。それはこれからだってずっと変わらない。でも…仕事が出来るのも、オレはイッチーがいてくれているお陰だと思ってる」
「レン……」
「だから、恋愛は二番手でもいいと思ってきたよ。一番にイッチーのことを考えてやれなくても、それはトキヤだって同じ。そう思って頑張ってきたつもりだ。……でもこうして、時々かもしれないけど、二番が一番になる日があってもいいんじゃないかな、ってオレは思うんだ。勿論、トキヤに強制するつもりはないよ。それはトキヤが決めることだからね」
強く握られた手は、僅かに震えていた。
「レン……私は…」
声が、震えてしまう。
こんなにも想われていたというのに、私は―――。
「私は…大馬鹿者ですね…。レンがこんなに私のことを思ってくれているというのに自分の保身ばかり考えて……情けない…」
「ううん、それがいいんだよ。トキヤがちゃんとブレーキをかけてくれるから、こうやって今まで関係を続けられてきたんだと思うしね」
「……本当にレンには頭が上がりませんね」
「どうしてだい? それを言うならオレの方さ」
もう一度、確かめるようにレンがトキヤを抱き締めた。
今度は一方的なんかじゃなく、双方が確りと抱擁を交わす。瞳が合い、そこから生まれるものは微笑と口付け。
二人はまた一歩、より良い恋人関係へと歩み寄る。仕事と恋愛を両立する、スーパーアイドルへと――。
「ねぇレン、まだ間に合いますか?」
「ん?」
「あなたを一番に想う時間」
重ね合った手を口元へ運び、手の甲へと口付ける。
それは、敬愛の印。レンへの想いをしたたかに伝授する魔法のキス。
「うん、喜んで」
にっこりと、レンが笑う。こんなにも嬉しそうな彼の笑みは久しぶりに見た気がした。
トキヤは大好きな彼を目の前に照れ臭そうに笑うと、ぎゅうっと抱き締めてレンを独り占めにする。
これからの数時間、久しぶりの重なる休日。
二人は初めて、一番の愛を交し合う―――。