二人の栄養補給




「イッチー……」

振り向く前に抱き締められていた。
背にすり、と頬ずりされ、私は動くことが出来なくなった。

「……レン?」
「少しだけこうさせて……」

ぎゅ、と抱き締める腕に力が込められる。
それは彼なりの甘えの仕草。言わば栄養補給だった。

腹の前にある手に手を重ね、指先を絡め合わせる。ごつごつした男の手はいやらしく、この指が奏でるメロディを私は好んでいる。
不思議なもので、レンの手に触れているだけで安心できてしまう。時々、撫でるように触れながら、温もりを共有する。少しでもレンの心のざわめきが静まればいいのだけれど。

ずい、と体重を掛けられると、それを享受しながらレンの動向を探る。
ただ抱き締めるだけで満足出来るのならばいいのだが、出来ればどんな表情をしているのかが見たいところ。私は気になって仕方がなかった。

これでも私たちは恋人関係だ。ST☆RISHのメンバーの中では、翔くらいしか気付いていないけれど。学生の頃から、秘密裏に、関係を築いてきた。
思う存分、甘やかすことが出来ないことへのジレンマはやはりある。目立ったことは出来ない。そう分かっているからこそ辛いものがあるが、お互いに仕事を尊重しているし、今の関係が丁度良いとも思っている。
だから、こういう風に、傍から見ればじゃれ合っているだけ、仲が良いだけ。そう思わせることで、過ごしやすい空間を作り上げてきた。

だけど、偶に。
本当にごく稀に、ほんの僅かな欲望が、その枷を外そうと身体を疼かせる。


「レン……」


体を取り巻く腕を外し、向き合うように振り向いた。
落ち込んでいる様子を見せるレンの髪をくしゃりと撫でてやると、私は欲望に任せて口吻けた。
ちゅ、と触れるだけのキスは、私たちだけのおまじない。
まるで魔法に掛かったみたいに、私たちの心を晴れやかにさせてくれるのだ。

「…イッチーはずるいなぁ」

目元を綻ばせてレンが苦笑する。
繋いだ手から伝わってくる温もりを包み込むようにぎゅうっと握り返し、私たち二人は目を合わせて苦笑しあった。

「イッチーには敵わないや」
「ふふ、当たり前でしょう」
「ホントにね」

もう一度だけ、ぎゅっと抱き締めあうと、またいつもの距離を保つ。越えてはいけない一線を保ち、私たちはまた大好きな仕事に励む。

レンがいるから、
トキヤがいるから、

出来ることがある。前に進む原動力となる。

「ありがとう、イッチー」

もう大丈夫だよ。と、そう瞳が強く告げる。
離した手をもう一度だけ握られ、そうしてウィンクを一つ貰った。
私の目の前にはいつもの、たくさんの女性たちを魅了させるレンの笑顔がそこにあった。元気を取り戻してくれたようだった。

眩しい笑顔に背中を押されて、私たちは狭い鳥かごから飛び出した。
大きなステージへと私たちは共に羽ばたいていく。



2013.05.30
抱き締める、手を繋ぐ、キスをする。この3つがうちの彼らの栄養補給かなぁと思います。
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