スマイル




「おっと……イッチー…?」

背後からぎゅっと抱き締められた。レンの細い腰をがっしりとホールドして密着しているのは最愛のトキヤだった。

「どうしたの?何かあったのかい?」

振り向けないので、少しだけ体重をかけることで反応を探る。腹部にある手に手を重ね、様子を窺うレンの表情は柔らかく、落ち着きのある声音は年上の余裕を感じさせる。

「………なんでもありません」

否定の言葉に、レンは何かあったのだと推測する。そうでもなかったら、トキヤがこんな態度を取る筈がない。

「オレには言えないこと?」

優しく様子を見つつ、言葉を重ねていく。手の甲を摩りながら、トキヤの言葉を待った。そうやって、レンはいつだって待ってくれる。トキヤの心の整理が付くまで、彼の魅力であるその包容力で精一杯包み込む。

「……いえ…、そうじゃないんです。そうじゃ…」

その声は震えていて、レンは心配が募る。どうしたのかと、心が慌てだす。
トキヤは言葉を選んでいるようにも見え、そうして思いを隠してしまうところは彼の悪いところだ。何でも一人で抱えてしまう悪癖。それがトキヤの性格でもあるのだが、恋人として、何でも打ち明けてもらいたいという思いは誰よりも強いつもりだ。

「…ちゃんと聞くから素直に思ってることを話してごらんよ」

不安を拭うように、トキヤの手をぎゅっと握る。親指の腹で手の甲を撫でながら、トキヤの思考の整理がつくのをただただ待った。

「取れたんです…私…っ…」

声が、震えている。だけど、その声音は哀しさやマイナスイメージとは少し違うように思えて――。

「シングルランキング…!1位…!私が、1位…!取れて…っ!」

この数週間、ST☆RISHのメンバー一人ひとりが、毎週ソロシングルをリリースしている最中だった。CDの売上はランキングとなって跳ね返ってくるのだが、トキヤがCDを発売したのはつい先日のこと。ランキングが発表される日は今日辺りということは――、トキヤが涙目になって告げるそれは、ずっと獲りたいと願い続けたランキングの結果で―――。

「!本当かい?おめでとうイッチー!トキヤなら獲れると信じていたよ」

トキヤが告げたかったものは、悲報なんかではなく、心が躍るような朗報だった。
きっと動揺していたのだろう。震える声も、誰かが来るかもしれない部屋で抱きついてきたのも、全てはその結果が生み出したトキヤの素直な感情。喜びのそれだった。
トキヤの手を振りほどき、レンは真正面から彼を抱き締めた。『おめでとう』と耳元で囁き、きつくきつく抱き締めて喜びを分かち合う。
日頃、トキヤの自信満々の姿があるのには、その影で並ならぬ努力をしているからだ。そして、レンはその姿を誰よりも近くで見てきたし、応援してきた一人だった。
泣き崩れてしまったのは、トキヤの努力が実ったから。嬉しいのは、こんなにも沢山、トキヤを愛してくれているファンがいるから。

「…っ、」

レンにしがみつき、涙を零すトキヤの頭をぽんぽんと撫でる。
その涙が落ち着くまで、レンは彼を抱き締め続けた。彼が持つファンの愛に負けないくらいの愛情で、トキヤを包み込む。
今だけは一人のファンとして祝福したい。それくらい、トキヤが成した快挙は壮絶なものだった。

トキヤを抱きながら、レンは思う。自分も負けてられないな、と。
その感情はライバル心からであり、同じアイドルとして切磋琢磨しあう仲間だからこそ感じる喜びを、トキヤにも感じてもらいたいと思ったからだった。

二人はそうして互いを高めあう。単なる恋人関係だけでなく、そう言う存在としてより良い関係をこれからも築いていきたい。

「ありがとう、イッチー」

前向きな気持ちにさせてくれて。沢山の笑顔をくれて。ありがとう。
二人はまた一歩、アイドルの道を共に進んでいく。




2013.06.22
リリースする毎にランキングが上位になっていくんだけど、それでも取れなかった1位を取ることが出来たとしたら…
トキヤもさすがに動揺するかな?…と。
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